村上春樹の新刊が発売された。
AIがオフィスを置く神田神保町は本の街。これほどの超人気作家が新刊を出すと、街全体が活気づく。
円安株高で盛り上がるのもいいが、文芸書の新刊で盛り上がるのもいい。
読書は嫌いではないが、これといった読書傾向はないんです。
「食欲の科学」を読むかと思えば、「IGPI流 経営分析のリアル・ノウハウ」も読む。
「動物に魂はあるのか」も読んだ。
たいていの本に言えることは、読んでいる時は理解しているつもりなのに、
しばらく時間がたつと内容の多くを忘れてしまっていること。
それでも、折々に記憶に残る本もある。
小学生のころ、移動図書館で「雲の墓標」という本を借りた。
勇ましい戦記物かなんかだと思っていたら、学徒兵を描いた小説だった。
主人公は「雲こそわが墓標……」という遺書を残し、特攻隊員として死ぬ。
とても、意外なモノを読んだ気がした。
主人公が、死ぬ。戦闘場面は、あまりない。
主人公の学徒兵の思いが、いろいろ書かれていた。
自分にまったく関係がないわけでもなかった。
私の叔父は特攻で死に、私の父は訓練は受けたが、死ぬ前に戦争が終わった。
ただ、2人とも予科練出身の航空兵。
予科練は学徒兵のように、上手に遺書は書けないだろう。
村上春樹の翻訳でベトナム戦争に関係するものがある。
ティム・オブライエン「本当の戦争の話をしよう」。
若い兵士の日常を、しかし死がすぐそばにある日常を、乾いたタッチで描き、
それを村上春樹の訳がうまく日本語で伝えていると思った。
電子書籍で読むと、受け取り方は変わるのだろうか?
「本当の…」は、それほど変わらない気がする。
「雲の墓標」は、まだちょっと違和感があるかもしれない。
個人的な見解です。
(敬称略)
※移動図書館=私が子どものころ、市立図書館の本の一部を載せたクルマが定期的に巡回していた。
「ロバのパン」と同じようなノリで、子どもたちが集まり、結構借りていた。